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山田悦子(著)/岡本寛治(写真) 『風呂敷つつみ-A Complete Guide to Furoshiki-』(バナナブックス刊)より
風呂敷は正方形ではない。上下と左右の長さがほんの少し違う。 風呂敷は、反物を裁断しその端を三ツ巻きにして縫い上げる。縫った端を天地(上下)とし、生(き) 地(じ) 巾(はば) が左右となる。 巾(はば) よりも天地方向のほうが若干長くつくられている。
風呂敷には天地左右があり、真四角ではない。上下(天地)の長さを丈(たけ)、左右の長さを巾(はば)という。
包むもの(中身)の大きさの目安は、風呂敷の対角線の約3分の1。このくらいが一番包みやすい大きさとされている。主柄(おもがら)は自分から見て奥になるように裏返して広げる。
サイズは、「巾」という単位で、二(ふた) 巾、二(に) 四(し) 巾、三(み) 巾…と表し、基本だけで約10種類のサイズがある。 この表現は、生地巾が一巾(約36cm)で作られていた時代に、一巾のものを縫い合わせて巾の広いもの(例えば、一巾+一巾=二巾)を作ったことに由来する。現在では、広(ひろ) 巾の生地が生産できるようになり、四(よ)巾約128cm)までは一枚もの、五(いつ) 巾(約175cm)以上は縫い合わせて作られている。 最近では効率的に広幅から小さいサイズを量産するため、四方縫いで正方形のものもバリエーションに加えたり、基本のサイズ以外も商品化される傾向である。
【中巾(ちゅうはば)・尺四巾(しゃくよんはば)】
金封や小さいものを包む
【二巾・二尺巾】
贈答品、衣類、弁当を包む
【二四巾】
一升瓶を包む、サブバッグ
【三巾】
収納、テーブルクロス
【四巾】
収納(座布団、衣類など)
【五巾・六巾・七巾】
収納(布団など)
風呂敷の素材も時代とともに豊富になってきている。 色同様目的に合わせて、ふさわしい素材を選ぶことが望ましい。それぞれに手入れの方法も変わる。
縮緬(ちりめん)【=強撚糸織物】が代表的。絹特有の光沢感と発色性に優れ、ふっくらとした肌合いは晴れの日にふさわしい上質感がある。 業界では絹100%を正絹(しょうけん)とも呼ぶ。
取扱い | |
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洗濯 | ドライクリーニング (強撚糸のちりめんは、水に濡れると縮むので注意) ※日焼けなどを防ぐため裏向けにたたんで保管するのが望ましい |
アイロン | デリケートな素材なので、あて布をして約140~160℃(中温度くらい) |
絹に似た光沢感と発色性がある。高価な絹に対して手ごろな価格のため、日常使いやお土産として好まれる。絹を「正絹」(しょうけん)と呼ぶのに対して、「人絹」(じんけん)【=人工的に作った絹のような糸の意】と呼ぶこともある。 水に縮む特性あり。
取扱い | |
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洗濯 | ドライクリーニング (水に濡れると縮んで、風合いも損ねるので注意) |
アイロン | あて布をして、約140~160℃(中温度くらい) |
一番身近な天然素材でもある綿。丈夫でしっかり結べるため、運搬用にも適している。使うほどに柔らかくなり肌に馴染む。 また吸水性にも優れ、取り扱いも簡単なので家庭でも洗濯でき、普段使いに向いている。
取扱い | |
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洗濯 | 家庭用洗濯機可・手洗い可(色落ちするものもあるため注意) |
アイロン | 約180~210℃くらい(高温度でも可) |
丈夫でドレープ性に富み、シワになりにくい。水にも強く、縮むことも色落ちもほとんどないため、家庭でも洗濯可能。 滑りのいい素材なので"結ぶ"、"解く"の動作もやりやすく、たたむとコンパクトになり扱いやすい。使どに柔らかくなり肌に馴染む。 また吸水性にも優れ、取り扱いも簡単なので家庭でも洗濯でき、普段使いに向いている。
取扱い | |
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洗濯 | 家庭用洗濯機可、手洗い可(デリケートなものは手洗い) |
アイロン | 約140~160℃ (中温度くらい、高温すぎると溶けるので注意) |
薄くて軽量、最もコンパクトにたためる。 水にも強く、縮み、色落ちもほとんどなく速乾性に富む。しわにもなりにくいので扱いやすい。
取扱い | |
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洗濯 | 家庭用洗濯機可 |
アイロン | 必要ない。あえて掛けるなら低温度 (高温だと溶けるので注意) |
ペットボトルなどの再生糸を原料とした繊維。環境に配慮したリサイクル素材の開発が進む。
取扱い | |
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洗濯 | 家庭用洗濯機可 |
アイロン | 約140~160℃ (中温度くらい、高温だと溶けるので注意) |
四角形の布を包み布として使う文化を持つ国は日本以外にも多い。韓国のポジャギや、中国のバオフ、またチベットや、南米のチリでも同じような包み布の文化は存在する。それらはその国の気候や風土に、また民族の美意識によって素材、色、柄にそれぞれ違いが見られる。四季折々の豊かな自然に恵まれ独自の感性を育んできた日本。 日常の道具にも、日本人独特の美意識や繊細な心配りが感じられるのは興味深い。
一枚の布には日本人の美意識が詰まっている。広げたときの美しさはもちろん、包んだときの変化も考えて構成されている。 非対称の美しさや、平面と立体とを同時にとらえる視点も日本人特有の感性といえるだろう。
広げた右下に、目をひく柄が描かれている。
字に四等分する構成。
一枚を表裏で染め分け、両面の違いを楽しむ。
四方の辺を、額縁のように縁取った構成。
対角線や縦方向に二等分された構成。
左右に変化をつける構成。
色は、日本の伝統色が基本。万人に永く愛用される色が使われてきた。 色がもつそれぞれイメージがあるため、目的に合わせてふさわしい色柄を選ぶ必要がある。
朱や紅色など目に華やかな色は、慶事にふさわしい。
黄金色に近い渋めの色も明るさがあれば慶事にも。
鶯(うぐいす)色、常磐(ときわ)色など渋めの色は慶弔ともに使える。萌黄(もえぎ)、青磁(せいじ)は華やかな印象。
藍や鉄紺など深みのある色は弔事の際も使える。淡い色は涼を誘う。
古代より高貴な色として扱われた。慶弔の区別なく使える。
地味な茶も「四十八茶」の言葉があるように、粋な趣やこだわりを感じさせる。
風呂敷の絵柄には、おめでたい意味合いの吉祥文様が好んで描かれる。 花鳥風月を表した柄や、単純化し連続させた小紋柄などにも意味や願いが込められている。文様一つにも思想や遊び心が見え隠れする。
二枚貝は、他の貝とは決して合わないことから夫婦和合の象徴。
宝珠や、打ち出の小槌など縁起の良いものを集めた文様。
荒い波間を勢いよく跳ねる鯉。急流を登り、龍になる説話の出世魚。
敏速で攻撃力の強い虫として「勝虫」とも呼ばれ、武将に好まれた。
平安時代の王朝貴族の物語を華やかに描いた典雅な文様。
常緑の松、天に伸びる竹、酷寒に芳しく咲く梅。吉祥文様の代表。
鶴は千年、亀は万年。長寿の象徴として好まれる。
風に舞い吹き寄せられる落ち葉の風情。福を寄せる、「富貴寄」とも。
小さな点描を鮫皮状に並べた文様。島津家の定小紋。
麻の葉の断面に似せた六角形を基本とした文様。
多才な小堀遠州が好んだ名物裂を集め文様化したもの。
茶人千利休が好んだとされる梅花を文様化したもの。
南蛮貿易とともに日本に渡来、江戸時代に大流行した。
霰のような大小の点を縞状に並べた文様。
奈良の正倉院に残される御物の文様を模したもの。
平安時代貴族が輿や牛車に「しるし」としてつけたのが始まり。
マナーとは、決して堅苦しいものではない。大切なのは、自分本位ではなく相手の心をいかに汲むかである。 特に慶弔時にはこころしたいもの。弔事には派手な色をさけるなど、ちょっとした心くばりと知識を身につけておけば、あわてることなく目的に応じて適切に使い分けることができるようになる。 相手に差し出すときはぜひ、温かい心遣いを包み届けたいものである。
祝儀、不祝儀の金封を包むには、袱紗(ふくさ) もしくは小風呂敷を使う。袱紗の特長は2枚袷(あわせ) になっていること。 風呂敷を使う場合は中巾(約45cm)を使用する。お祝い事には明るめの色を、お悔やみの場合は地味な深めの色を使うのがふさわしい。
小風呂敷を裏にして広げ、金封を中央よりやや左寄りに置く。
最初に左をかける。
上をかける。
下をかける。
最初に右をかけて、先端を後ろへ回し全体を考える。
小風呂敷を裏にして広げ、金封を中央よりやや左寄りに置く。
最初に右をかける。
下をかける。
上をかける。
最後に左をかけて、先端を後ろ側へ回し全体を整える。
風呂敷の成り立ちをひもとくと、二つの道筋が浮かび上がる。
一つは「包み布」としての流れ。布でものを包む習慣は古くからあり、奈良時代には、「裏」「幞」と書いて"つつみ"と呼び、貴重な品を保管するために包む布として使われていた記録が残っている。
奈良の正倉院には御物を包んだ布が1200年の時を経て現存する。
平安時代には「衣幞」と書いて"古路毛都都美(ころもづつみ)"と呼び、鎌倉時代には「平包」と呼ぶ布が存在していたことが文献にある。
これらは現在の包み布としての「風呂敷」の前身であり、時代とともに名称を変えて使われ続けてきた。
一方、「風呂敷」の語は風呂が一般化するとともに世間に浸透していった。
徳川家康の遺品目録「駿府御分物御道具帳」には「風呂敷」の語が見られ、風呂で使う布としてその用途が語源となっていることがわかる。
そもそも"風呂"とは現在の湯船に浸かる形式とは違い、蒸気による発汗を目的とした蒸風呂をさす。
入浴の際、他人のものと取り違えないように布で衣類を包んだり、入浴後はその布を床に敷いて足をぬぐったり、その上で身繕いしたと考えられる。
このような背景から「風呂敷」という名前の由来が見えてくる。
形状や用途の似た「平包」と「風呂敷」は人々の暮らしの中で徐々に区別のつきにくいものとなり、江戸時代中頃にはものを包む布を「風呂敷」と呼ぶことが一般化し、定着したようだ。
商人は品物を運搬するために、また、旅人は荷造りの道具として、風呂敷はさまざまな場面で使われた。
そんな歴史をたどる風呂敷だが、近年私たちの暮らしの中からはすっかり影をひそめていた。
戦後の高度経済成長期を経て、古臭い、面倒くさいといったマイナスイメージにより、風呂敷は使われなくなった。百貨店やスーパーマーケットの、
紙袋やレジ袋のサービスの定着も大きく影響し、また急激な世相の変化に風呂敷自体がついていけなかったのも要因と考えられる。
しかし今、再び風呂敷が見直されつつある。一つは環境問題対策の視点から、もう一つは若い世代が日本文化は面白いと関心を持ち始めたことによる。
祝儀、不祝儀の金封を包むには、袱紗(ふくさ) もしくは小風呂敷を使う。袱紗の特長は2枚袷(あわせ) になっていること。風呂敷を使う場合は中巾(約45cm)を使用する。お祝い事には明るめの色を、お悔やみの場合は地味な深めの色を使うのがふさわしい。
一枚の布「風呂敷」は、千年を越えて使われてきた。名称は変わりながらも、形はさほど変わることなく受け継がれてきた。その背景には、先人たちの知恵があり心があった。限られた国土、資源、狭い家屋でも心豊かな暮らしを営むことができたのは、それらへの感謝を忘れず、必要な時に必要な分量を最後まで有効に利用する知恵や工夫を誰もが身につけていたからではないだろうか。そんな先人たちの営みを風呂敷は教えてくれる。
ライフスタイルやファッションが大きく洋風化した現代。風呂敷も色柄がカラフルでモダンなものや、素材も透けるような薄手のものなど今までの風呂敷のイメージを払拭するものが開発されている。使い方、持ち方においても今のファッションに合うスタイルが求められている。着物姿で風呂敷を使うイメージから、洋服で持つスタイルへ。改まった晴れの日の道具としてだけではなく、日常に役立つ便利な道具へと時代の価値観が動きつつある。
山田悦子(著)/岡本寛治(写真) 『風呂敷つつみ-A Complete Guide to Furoshiki-』(バナナブックス刊)より